高齢初発てんかん

 私が脳外科研修医のころ、「てんかんは小児期に発症するもので、20歳以降に初めて発症したてんかんは頭の中に何かある。脳腫瘍・血管奇形を疑え。」と教わったが、てんかん診療を重ねていくと、20歳以降発症するてんかんはかなりおおいことに気づいた。もちろん脳腫瘍・血管奇形などが原因でないてんかんである。それどころか高齢初発のてんかんも稀でないことがわかってきた。稀どころか意外と多い。同様の経験をした脳神経学者が多かったと見え、近年これらのてんかんが注目され、50歳以降に発症したてんかんを晩発性てんかん(late onset epilepsy)と定義して、数多くの論文が出ている。私も2編の論文を発表した(下記参照)。

 てんかんは高齢者では起きないという古い認識のために、依然として正確な診断・治療がなされていないのは残念なことだ。大病院で原因不明と言われた方がしばしば来られる。脳波検査は万能というわけでない。単回の検査で異常が出ないこともある(30%)。脳波で異常捕らえられないと、てんかんという診断がなされず、てんかん性自動症をストレス性とか認知症と診断され、不適切な治療を受けている。症状がよくなるはずがない。

 高齢初発てんかんという概念がないことは、てんかんを専門としない医師の場合、しかたないことかもしれない。また脳波で異常が出ないこともあるということを知らない医師もいるかもしれない。てんかん診療は片手間でできるものではない。



<高齢初発てんかんについて私が書いた論文>

今村 真一 その他  
「皮質形成異常を伴った高齢発症てんかんの1例」
脳と神経 58巻2号 151-154 2006年

今村真一, 田中滋也
「高齢初発てんかんについて」
Medical Practice 22(11) 1975 2005年